目を覚ましたのは暑さのせいだった。軽く汗をかいているのが分かる。布団を除けようとして優しい何かに手が触れる。ああ、さとりさんだ。
 掛け布団を縦半分に折る。さとりさんを起こさぬように、そっと。それでも何か感じるものがあったのか、さとりさんは小さく寝返りを打つ。起こしたら悪いな、とは思うのだが、起きてしまうのならそれはそれで嬉しい。僕は体をずらしさとりさんに体を向ける。
 ……一さとりさんと一つの布団で眠っている。ほんの少し前ならばぎくしゃくしてしまって眠るどころではなかったはずなのに、今僕は酷く安らかな気持ちでいる。眠っているさとりさんが息を吸い、息を吐く。そのささやかな動きを見ているだけで、眠くなるようなほっとするような気持が増していく。勿論、息がかかる程、さとりさんの香りが鼻をくすぐる程傍にいて胸が高鳴らないはずもない。けれども、緊張したり、ムラムラしたり、さとりさん俺だ―結婚してくれーなんてそんな気分ではない。こうしてさとりさんの傍にいること、さとりさんが安心して傍にいてくれることが自分にとってごく自然な状態なんだと、そう感じた。こんなに簡単にこんな気持ちになれるなんて、分かっていたこととはいえ本当に自分は馬鹿なんだなと思う。いや、むしろ男が、かも。男は女で変わるだなんて馬鹿にしていたけれど、実際にそんなもんなのかもしれない。こりゃ、一生尻に轢かれるかも。さとりさんの髪をそっと撫でる。ちょっとごわごわの髪は良い匂いで、鼻を近づけて嗅いでみたり、軽く髪に口づけをしたりする。さとりさんが寝ていると、結構凄いこともしちゃえるものだね。
 って、あれ? 今さとりさんの呼吸が乱れたような……。
 ええと、……ああよかったさとりさんまだ寝てるね。今まで変に我慢してきたし、折角だからもうちょっとすごいことしてみようかな? 僕が布団の中でごそごそ動くと、さとりさんも寝がえりを打ってこちらに背を向ける。こりゃ、起きてるね。いつからかな。……寝た振りし続けるなら、本当にすごいことしちゃうよー? 「…………」 左様で。
 さとりさんを後ろからそっと抱き締める。さとりさんは一瞬身を固くして、それからふっと力を抜いてくれる。僕はさとりさんのうなじに頭をうずめて、だんだん速くなっていくさとりさんの心音に心を澄ます。規則正しくちょっとだけ早いその音がなんだか無性にうれしい。……自分でも意外なほど大胆に動いてるな。多分寝ぼけてるんだ。その証拠に、ほら、何か眠くなってきた。さとりさん、僕寝ちゃうよー。嫌だったら寝たふり止めてねー……。

「……本当に寝ちゃいましたね。ここまでしておいて何もしないなんて、何かの病気じゃないかと疑ってしまうわ」
「うん、でも、温かい。……焦らなくてもいいわね。『一生』傍にいてくれるんですもね?」

「おやすみなさい」
 おやすみ、さとりさん。