さとりさんと出会った時の話だ。
 気付いたらうつ伏せに肩を膝で、頭を酷く大きな手で押さえつけられていた。こめかみが痛かった。目だけ動かすと不格好でやたら大きい人影が広くとり囲んで騒ぎ立てている。その中でも二つ、動物頭と首が二つの男がすぐ傍で睨みあっていて、その間に角の生えた女の子がに軍配片手に取り仕切っている。突然、額を貫くような柏手が響く。場が静まり返って、空気が一気に張り詰めた。動物頭と二つ首は睨み合いながらも、腰を落とし地面に拳を突き立て、また立ち上がるを繰り返す。
 「一体何の騒ぎですか?」 ピアノ線の様な声が緊張を貫いて辺りに響いた。声とともにふわりと人影が降りてきて、それだけで張り詰めた空気と熱気が霧散し、居心地の悪い視線だけが所在なさげに交わされるばかりになってしまった。僕を押さえつける力すら緩んだ気がする。「なぁに、ちょっとした祭りさ。さとりが出張るようなもんじゃないよ」行司の女の子が一人、不機嫌を隠さない明るい声を上げた。覚りと呼ばれた人影は、ふむと、辺りを見渡す。行司の少女を含めても、目線を逸らさなかったものは殆どいなかった。そして僕と眼が合う。鳶色のボブと瞳が印象的な、華奢な女の子だった。