さとりさんと触れ合えば触れ合う度に、さとりさんのことを何も知らないのだと思い知らされる。勿論聞けば話してくれるけれども、聞けば聞くほど自分の知らないさとりさんが見えてきて、さとりさんと僕との間にある時間や種族と言った様々な壁を感じずにはいられない。さとりさんは、こんな壁を感じている僕をどう思うのだろう? ひょっとしたら、誰の間にでもあるような当たり前のことに思い悩まされている僕のせいで寂しい思いをさせているのかもしれない。さとりさんも同じように僕との間に壁を感じているのかもしれない。ただ一つ言えることは、僕にはさとりさんの様にさとりさんの心を知ることはできないのだということ。……心を読めないことを歯痒く思うなんて、ちょっとした贅沢かもね。
 ねえ、さとりさん? 僕はさとりさんのすべてを知りたいだなんて考えるんだ。さとりさんの過去や性格、趣味、価値観。臭いも知りたい。髪やうなじ、足、脇、股、口。とにかくさとりさんのありとあらゆる臭いを嗅ぎたい。味も知りたい。耳、唾液、指、お腹、太股。さとりさんの全身をしゃぶり尽くしたいんだ。外側だけじゃなくて、中身も知りたい。お腹を引きちぎって、はらわたの一つ一つの温かさを感じて、感触を楽しんで、触感を楽しんで、さとりさんという命を僕の体全体で感じたいんだ。
 そしてね、さとりさん。さとりさんに同じことをして貰いたいと思うんだ。僕を知って欲しい。僕の心や気持ち、四肢、臓器、それこそ脳みそに手を突っ込んでその感触を楽しんで貰いたい。そして、食べてしまって欲しい。そうしてさとりさんに僕のすべてを五感で感じて欲しい。僕もさとりさんの体の一部となって、さとりさんの全てを感じられるだろうから。

 ……あぁ、糞、分かっているんだ。そんなことなんて出来やしない。さとりさんを傷つけることなんてしたくもない。さとりさんが好きなのであって、僕と混ざり合ったさとりさんを愛したいわけじゃない。僕とは違うさとりさんだから、僕はさとりさんを好きになったのに。決して、そう決してさとりさんの中にみた僕を―正しい自分でなければ許せないほどに僕のことが好きな僕を―愛した訳じゃないんだ。そうであっちゃいけないんだ。
 ……こんなことを考えれば考えるほど、さとりさんから遠ざかっていくように感じるよ。こんな馬鹿げた妄想を振りきって、たださとりさんと一緒にいたいっていうこの気持ちを信じればいいだけなのにね。うん、この気持ちは嘘じゃない。さとりさんと一緒にいたいんだ。
 あぁ、今日はとても冷えるねぇ。