さとりさんが溜息をついている。何か悩みでも? と聞くと笑って「そうじゃないのよ。ちょっと考え事をね」なんて言うものだから少し寂しくて、さとりさんばっかり僕の悩みを見通して、自分の悩みは一人で抱え込んじゃうとか、そんなの嫌だよなんて、つい声を荒げてしまう。さとりさんは僕の心を読めてしまうから話さなくても僕のことを分かってくれるけど、僕はさとりさんが話してくれないと駄目なんだ。もっと声を聞かせて欲しいんだ。
 さとりさんはきょとんとした顔をして、そして噴き出すのを堪えるように笑った。声を抑えて、口元を手で隠して笑うさとりさんを見て、取り越し苦労だったのかな、とか思う。でも、伝えなくちゃいけない言葉を言うことが出来て良かったとも思う。ってさとりさん、人が真面目なこと考えてるのにいつまで笑ってるんですか。「っふ、ふふ……、ごめんなさっ……ふふ」 さとりさんの笑いはしばらく収まることを知らなかったけど、しばらくすると目じりに涙を浮かべながらも悪戯っぽい調子でこう切り出した。
 「そうなんです、私今とても困ってまして」そう告げるさとりさんの顔はとても嬉しそうで。「私たちが地上に疎まれて地下に追いやられたというのはご存知ですね。その中でも私、覚という種族の心を暴く力故に(正確には少し違うんですが)特に疎まれ、灼熱地獄と怨霊の管理者として地霊殿の主となりました。まあそんな訳でして、永い間言葉あるモノや人間との関わりの薄い生活をしていました。それが互いにとっての最善であると。」一呼吸置いて、「ところが、あなたという人間がここにやって来ました。まるで言葉を知らぬ動物のように私を恐れず、心を読まれると知りながら塗りつぶさず……私への好意を開けっ広げにして私に接して下さいました。そうして、他者から疎まれる痛みを思い出させて下さいました。そして、他者から疎まれることがなぜ痛いのかを教えて下さいました。」 さとりさんが僕の手をとる。「あなたに出会って、あなたが私を好きでいてくれて、そうして初めて表層真理の奥に、心に触れることが出来ました。こいしと向き合うことが出来ました。」 じっと、僕の目を見る。「あなたの、おかげなんですよ?」 ほほ笑むさとりさんに、僕は泣きそうになった。小さく頷いて、僕は目を閉じる。
 「ところが」 少し大げさな口調。「そんな私の大切な恩人は、私のことが好きだ好きだと言いながら、ご自分では一向に手をお出しにならないのです」
 …………。
 「私の気持ちはもうお伝えしてあるのですが、何やら小難しいことを考えては躊躇するばかり。こちらからそれとなく誘惑しましても、私に悪いだの何だのとあれこれ理由をつけるだけ。これはもう、私の方から襲うしかないかとも考えましたが、やもすれば手を出されないのは私に女としての魅力が無いからではないかと不安になってしまいまして」 さとりさんが悪戯っぽく笑う。「本当、しっかりして下さいよ」 あー、その。「なんでしょう?」 ごめんなさい。「今度こそ結果で示して下さいね?」 善処します。
 ちなみに、現在の目標はバードキスです。ホント申し訳ない。